身体拘束廃止未実施減算とは?ジレンマとの向き合い方やポイント
メルキタ介護
2025.10.14
2024年(令和6年)4月から始まった身体拘束廃止未実施減算。虐待や人権侵害の要因となりうる身体拘束をなくすための決まりで、たとえどのような理由があっても、体制が整備されていなければ介護報酬が減算となってしまいます。一方で、職員の安全確保とルール遵守の間で葛藤している...という現場の声も少なくありません。今回は組織としてどのように対応すべきかを解説します。
なぜ今、身体拘束廃止が厳格化されたのか?
高齢者虐待判断件数の増加にあります。2023年(令和5年)は過去最多の1,123件を記録し、前年比31%増という深刻な状況となっています。背景にあるのは、人材不足による現場の疲弊や介護経験の浅い職員の増加。法整備がなされた理由は、これまで「努力義務」だった取り組みを報酬体系として組み込み、実効性を高める狙いがあります。
※令和5年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果
減算を防ぐための4要件をチェック!
前提としてまず、届出をしていない事業所は自動的に減算型扱いとなり、施設系サービスでは10%、通所・訪問系では1%の減算が適用されます。減算は「事実が発覚した月」から適用され、改善が認められるまで継続します。遡及適用はありませんが、発見された時点から最低でも3カ月間は減算扱いとなるため注意が必要です。
その上で、減算を防ぐには以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。いずれか1つでも欠けていると減算対象となります。
1. 身体拘束の記録
やむを得ず身体拘束を行った場合、切迫性(身体生命の危機が切迫しく高い理由)、非代替性(他に代替手段がなかったかの検討過程)、一時性(いつからいつまでの一時的措置か)の三要件をすべて満たす記録が必要です。記録は身体拘束の実施の都度作成し、2年間保存しなければなりません。
2. 身体拘束適正化委員会の開催
3カ月に1回以上開催し、議事録を作成して職員へ周知する必要があります。法人単位やオンラインでの開催も可能です。
3. 身体拘束適正化指針の整備
身体拘束ゼロを目指す理念・方針・対応手順を文書化し、職員に共有します。施設内での掲示・配布が望ましいとされています。
4. 職員研修の実施
全職員対象に年1回以上実施し、研修記録(日時・内容・参加者)を保存する必要があります。また単なる説明ではなく、倫理的視点を含む内容でなければなりません。
どう向き合う?「安全」と「尊厳」の板挟み
身体拘束については、多くの現場では「安全」と「尊厳」の間でジレンマを抱えています。「転倒した場合に責任を問われる」「家族が納得しない」という職員の声もあり、葛藤の中で身体拘束をしてしまうケースも少なくありません。適切に運用するためには職員一人ひとりの「納得感」も重要で、防止する意義を理解していることが防止につながります。職員教育では以下のような工夫が効果的です。
・語る場の創設:「なぜ拘束したのか?」を職員が語り、思いを共有する
・記録様式の工夫:表計算ソフトを用いて客観的なデータを残しておくなど、振り返りができる記録を残す
成功事例としては、定期的な家族説明会で信頼関係を築く施設や、「拘束ゼロチャレンジ月間」を設けて職員一丸となって取り組んでいる施設、職員の声を集めた「ケア日誌」を共有し、気づきを得ている施設の事例があります。
まとめ
身体拘束の完全な廃止は一朝一夕には実現できませんが、組織全体で取り組み、職員一人ひとりが利用者の尊厳を守るという意識を持つことで着実に前進できます。まずは4要件を満たしているか今一度確認し、減算を回避するとともに、利用者にとってより良いケアを提供していきましょう。
※この記事は2025年8月21日に開催したジョブキタオンライン勉強会「身体拘束廃止未実施減算への対応」の内容を元に制作しています。
●ふくしのよろずや神内商店合同会社
代表 神内秀之介さん
公益社団法人日本社会福祉士会理事を筆頭に数多くの肩書を持ち、介護経営のコンサルタントとして、福祉業界のサービスや経営環境、就労環境の向上のために講演活動やさまざまな経営のアドバイスを行っている。