【レポート】介護事業所向けBCP対策相互勉強会
メルキタ介護
2021.09.14
「介護事業所向けBCP対策オンライン相互勉強会」を6月17日(木)と7月13日(火)の2日間、オンラインで開催しました。テーマは、令和3年介護保険制度・報酬改定で義務付けられた「BCP対策」。災害時や感染症の発生時に、事業を継続するためにいかに対策するか。講師にふくしのよろずや神内商店合同会社の神内秀之介さんをお迎えし、意見交換も踏まえた勉強会として実施しました。
代表 神内秀之介さん
北海道社会福祉士会会長を筆頭に数多くの肩書を持ち、福祉業界のサービスや経営環境、就労環境の向上に取り組んでいます。
職員と利用者の命と健康を守るために
福祉の世界におけるBCPとは、収益にかかわらず利用者の命と健康を第一に「事業を止めない」という事が大前提です。また災害対策、感染症対策と間違われやすいですが、BCPは「事業を続ける」事を目的としています。
マニュアルは災害と感染症で大きく2つに分かれます。その理由は業務量の変化。災害の場合は業務が止まり、元に戻すための復旧が必要。一方感染症の場合は業務が止まる事はなく、逆に増え続ける業務を元に戻すため、どんな業務を優先するか、どこに人員を配置するかという見直しを迫られる事が特徴です。と言っても、感染症のBCP対策が災害時にも役立つため、今回は感染症での対策を中心に話を進めていきます。
事前準備が必要な8つのポイント
実際にBCP対策を策定するにあたり、あらかじめ準備の必要な事柄は次に挙げる8点です。
②施設・事業所外の連絡リストを用意する
③感染疑い発生時のために職員、入所者・利用者の体温・体調チェックリストを作る
④感染疑い発生時のために、感染(疑い)者、濃厚接触(疑い)者管理リストを用意する
⑤部署ごとの職員緊急連絡網を準備する
⑥備蓄品リストを用意する
⑦業務分類・優先業務の選定をあらかじめ検討する
⑧保健所や関係者など来所者の体温チェックリストを作っておく
さらに、上記の体制を設置した事を全職員に周知し、共有する事が重要です。周知とは「複数の機会に複数の手段で知らせる事」。朝礼での発表やメール配信、掲示や会議の際など、さまざまな手段で繰り返し知らせてください。
研修・訓練は繰り返し行い習慣化を
新入職員から管理者まで、すべての職員が感染症発生時に向けて訓練を行う必要があります。「○○が起きたら○○をする」という仮説からの行動フローを定めておく事が大切で、ポイントは習慣化がどれだけできるか。行動フローができるために必要な知識や技術を取得するのが研修であり、一連の流れの中で実行できるのが訓練です。
最初は感染症発生時の知識も、行動を起こす能力もない「無自覚・無能力」の状態ですが、繰り返し訓練を行えば、考えなくても勝手に体が動く「無自覚・有能力」の状態となります。
また、最も業務に慣れていない新入職員を「無自覚・有能力」にする事を目標とすれば、全職員が非常時に迅速な行動を起こせるようになるでしょう。
その他、必要な項目
- 介護記録の電子化、自動化...記録をデジタル化にしておく。ITを導入した自動化を検討すると良い。特にクラウド化でどこにいても即時情報共有できることが有用。
- 緊急連絡網...一方通行の連絡網ではなく、双方向が確実に連絡ができる体制を整えておく。平時の連絡網とは分けて検討する。停電やネットの遮断などにも備え、アナログな方法で伝達する方法も取り入れる。
- 備蓄の購入...感染症と災害で分けてわかりやすくしておく。過剰投資にならないよう、優先順位をつけて補助金のタイミングで一気に購入する事や、ローリングストック(平時に使いながら備蓄する)などの工夫も必要。
- 代用品の検討...クリアファイルで作るフェイスガード、ビニール袋で作る防護服など、代用可能な物を準備したり、その製作方法を覚えたりしておく。
- 業務分類...継続業務、追加業務、削減業務、休止業務の4つに分けると優先順位がわかりやすい。優先する業務に必要な職員の必要人数や出勤率を検討しておく。
地域貢献こそ福祉の役割
浴場や食堂などの設備を持つ介護事業所は災害発生時に一時的な避難所となったり、備蓄品を配る拠点となったりする可能性があります。また大きな施設を持たない訪問系の事務所も、他の事業所から支援物資が届いたり、ボランティアの拠点となったりする可能性もあります。日ごろから地域と連携しておく事で、災害時により迅速に機能するでしょう。
こうした役割、そして利用者・職員それぞれの命を守るためにBCP対策の策定が必須です。少しずつ取り組み、地域貢献という福祉の役割を果たせるよう整備してください。
参加者との意見交換では、次のような討論や質疑応答が行われました。一部を紹介します。
参加者A:実際に新型コロナウイルス感染症が発生した時、マニュアルがあってもやはり現場が混乱してしまいました。いつ発生しても対応できるような今すぐにできる対策はありますか?
神内さん:混乱を避けるために重要なのは、曖昧なルールをマニュアルで使用しない事。「グレーな時は黒」というようにハッキリと2択にするよう定め、マニュアルさえ見れば新入職員でもすぐに行動が起こせるように策定してください。
参加者B:当社は大型施設から在宅系など幅広い事業所があり、エリアも分かれています。BCP対策はそれぞれ策定したほうがいいでしょうか?
神内さん:事業所ごとに環境が異なりますので、それぞれで策定するのが一番です。しかし、大きな法人や複数の事業所を抱えているところは、ガバナンスが必要となるので共通する基本軸や方針・計画などの枠組みは統一し、現場環境や条件で異なるところを変更するとわかりやすくなります。またそれぞれの事業所間での連携した対策を考えておくと、もしもの時に職員を派遣したり、連絡を代理できたりというメリットがあります。
参加者C:対策を「やろうね」と言っているばかりで時間がなく進みません。前に進めるためのアドバイスをお願いします。
神内さん:人手不足による多忙で、対策に取り掛かれない事業所は多いでしょう。まずは手の空いている職員たちで連絡網や備蓄など、わかりやすい部分から作り始める事をお勧めします。そして、メンバー達で「こういう物を作りました」と宣言する事で手伝う人が増えたり、「作らなければ」という空気ができたりするでしょう。
参加者D:当社もなかなか動き出せずにいましたが、実際に対策マニュアルを作り始めると一気に話が進みました。職員の不安が減ったと感じていますし、感染症が発生しても対応できるようになったと思います。当初は「感染症対策」と「BCP対策」の違いが分かっていない人がほとんどでしたので、これからマニュアル作りに取りかかる事業所は、この違いを理解してもらってから始めると良いと思います。
神内さん:やはり取りかかる事は重要ですね。感染症では職員と利用者、双方が同じ立場になる事もありえます。また災害時には職員も被災者になります。マニュアルの策定が終わりましたら、利用者も含めた訓練を行うとさらに良いでしょう。さらに、感染や災害が発生するとその時は気を張っていて、やりこなせてもその後メンタル不調に陥ることがあります。BCPの計画を策定する際には、メンタルヘルスケアについても一緒に考えましょう。